6sense:AIを活用したB2B営業・マーケティングの革新者
近年、B2Bマーケティングにおいて、顧客一人ひとりに合わせた One to One マーケティングを実現するアカウントベースドマーケティング(ABM)が注目されています。その中で、AIを活用してABMを強力に支援するプラットフォームとして台頭しているのが 6sense です。本レポートでは、6sense の企業概要、製品・サービス、AI 活用ポイント、市場における評価、競合との差別化要因、将来展望などを分析し、その革新性と成長性について考察します。
1. 基本情報
- 会社名: 6sense
- 設立: 2013年
- 本社所在地: カリフォルニア州サンフランシスコ
- 資金調達状況: シリーズE 【出典1】 【出典2】
- 調達総額: 2億ドル 【出典2】
- 主要投資家: Blue Owl、MSD Partners 【出典2】
- 最新調達ラウンド: シリーズE(2022年1月) 【出典2】
- 企業価値: 52億ドル(2022年1月時点) 【出典2】
- 公式ウェブサイト: https://www.6sense.com/
ビジョン・ミッション
AIを活用して、B2B企業の営業・マーケティング活動を自動化・最適化し、収益向上を実現すること。
2. 製品・サービス概要
6senseは、AIを搭載したアカウントベースドマーケティング(ABM)プラットフォーム「6sense Revenue AI™」を提供しています 【出典3】。このプラットフォームは以下の特徴を持ち、B2B企業の営業・マーケティング活動を包括的に支援します。
- ビッグデータアーキテクチャ
- Dark Funnel(ダークファネル)の可視化
- 予測分析および Buying Stage Model(購買ステージモデル)
- Conversational Email
創業当初から大量のデータを一元的に収集・管理する設計がなされており、ウェブサイトの閲覧データやフォーム入力データ、さらに CRM やマーケティングオートメーションプラットフォーム(Eloqua、Marketo、Pardot、HubSpotなど)からのアクティビティデータを統合。これにより、企業がもつファーストパーティデータはもちろん、ウェブ上のさまざまなパブリッシャーから提供されるサードパーティデータまで幅広く分析対象とします。
6sense が独自に定義・商標登録している “Dark Funnel” は、自社サイト以外で見込み顧客が匿名で行っているリサーチ活動を指します。例えば、業界のレビューサイト(G2、TrustRadius、Gartnerなど)や専門ブログ、メディアサイトなどを訪問している行動を、6sense 独自のマッチング技術によってアカウント単位で把握可能にします。こうした「見えない需要」を早期に発掘し、購買意向を推定する点が大きな強みです。
過去の商談データから学習した複数の機械学習モデルを用いて、アカウントの購買段階を「Awareness(認知)」「Consideration(検討)」「Decision(決定)」「Purchase(購入)」などに分類。さらに、Ideal Customer Profile(ICP)モデルやコンタクトプロファイル適合度といった複数のスコアリングも行い、営業・マーケティングそれぞれが集中すべきアカウントと最適な施策を可視化します。
6sense が提供する “Conversational Email” 機能は、優秀なインサイドセールス担当者や BDR(Business Development Representative)を“クローン”するイメージの先進的なソリューションです。通常のメール送信だけでなく、受信した返信内容に応じた自動応答を行い、興味を示した見込み顧客には即座に担当営業をアサインするなどのアクションを実行。ChatGPT 流行前から Generative AI を活用していましたが、現在は GPT-4 と連携し、プロンプトから自動でメール文面を生成したり、ホワイトペーパーやケーススタディなどのアップロード情報をもとに高度なパーソナライズを実現したりできます。
主な機能
- AIによるアカウントインテリジェンス: 潜在顧客の行動を分析し、購買の可能性が高いアカウントを特定 【出典3】
- 予測分析(Buying Stage Model): AIを活用し顧客の購買段階を推定、最適なタイミングと施策を提示 【出典3】
- エンゲージメントスコアリング: アカウントやコンタクトのエンゲージメント度合いを数値化 【出典3】
- 自動化されたアウトリーチ: 見込み客に対してパーソナライズされたメッセージを自動的に配信 【出典3】
- 営業チームへのパイプライン生成: AIが生成したパイプライン情報を営業チームに提供し、商談化率を高める 【出典3】
- Conversational Email: Generative AI を用い、返信内容に応じた自動メール応答や営業担当への引き継ぎを行う
ターゲット顧客
- B2B企業の営業・マーケティング部門
- 特に大企業やエンタープライズ企業
3. AI活用ポイント
3.1 大規模データの統合と分析
6senseは、ファーストパーティデータ(自社ウェブサイト、マーケティングオートメーション、CRM など)だけでなく、外部サイト(メディアやレビューサイト)のデータも含む膨大な情報を収集・統合し、アカウント単位で識別する点が特徴です。ビッグデータアーキテクチャを土台としているため、数千万~数億件規模のアクティビティデータを扱うことも可能で、これらを継続的にAIで分析することで高精度な洞察を得ます。
3.2 Dark Funnel の可視化
自社サイト以外の場所で匿名に行われているリサーチ活動(通称 “Dark Funnel”)を、6senseのマッチング技術によって可視化する仕組みは、従来のABMプラットフォームにはない大きな強みです。匿名データを企業(アカウント)レベルで識別し、興味関心を推定することで、営業・マーケティングの先手を打つ施策が可能になります。
3.3 Buying Stage Model(購買ステージモデル)
6senseには複数の機械学習モデルが組み込まれており、過去の商談データをもとに「商談が開かれる直前、アカウントはどんな行動をしていたか」を学習します。その結果として、現在のアカウントを購買段階(Awareness、Consideration、Decision、Purchase)に分類し、見込み度合いや最適施策を予測します。
- マーケティング部門: Awareness、Considerationのアカウントに施策を展開
- 営業部門: Decision、Purchase段階のアカウントを集中攻略
このように担当部門ごとの「分業」を明確化し、ABM全体の生産性を向上させることができます。
3.4 Conversational Email と Generative AI
6sense が提供する “Conversational Email” は、単なるメールの一斉配信ではなく、返信に応じてAIが次のアクションを自動的に判断する点が特徴です。たとえば「興味あり」の返信なら担当営業を招へい、「詳細希望」ならホワイトペーパーを自動添付、「3ヶ月後に連絡してほしい」なら適切なタイミングで再度送信、といったように、最小限の人的リソースで高度なコミュニケーションを実現します。
さらに、ChatGPTやGPT-4の技術と連携しているため、プロンプトを基に魅力的な文面を自動生成し、企業固有の資料(ケーススタディなど)を取り込んだ高度なカスタマイズが可能です。
4. 導入・パートナーシップ動向
- 導入事例: Fortune 500企業やBox社など、多くのグローバル企業に導入実績あり 【出典3】
- パートナーシップ: Salesforce、Marketo、HubSpotなど主要なSales Tech企業と連携し、CRM・MAツールのデータをシームレスに統合
5. 市場からの評価
6sense は ABM プラットフォームのリーダーとして、市場やアナリストから高い評価を得ています。
- メディア掲載: Forbes、TechCrunch、VentureBeat、日経新聞電子版などで頻繁に取り上げられ、注目度が高い 【出典2】 【出典4】 【出典5】
- Gartner Magic Quadrant: 2024 年の Gartner Magic Quadrant for ABM Platforms でリーダーに認定 【出典6】 【出典7】 【出典8】
- 顧客満足度: 平均契約額2倍・成約率4倍への貢献など、具体的な成果が報告 【出典6】
- G2/Capterra評価: 優れた機能性・使いやすさ・サポート体制が高評価。一方で UI 改善やSalesforce連携のさらなる強化を要望する声も 【出典9】 【出典10】 【出典11】 【出典12】
6. 競合環境・差別化要因
6senseは、ABMプラットフォーム市場において複数の競合が存在する中、以下の点で差別化を図っています。
主な競合
製品名 | 価格 | 主な機能 | 強み | 弱み |
6sense | 顧客の規模や要件により変動 【出典16】 | AIによるアカウントインテリジェンス、予測分析、エンゲージメントスコアリング、自動化されたアウトリーチ、Conversational Email | 強力なAIエンジンとデータ分析能力、Dark Funnelの可視化、優れた顧客サポート | 価格が高め |
Salesforce Pardot | Growthプラン: 月額1,250米ドル、Plusプラン: 月額2,750米ドル 【出典13】 | リードナーチャリング、メールマーケティング、ランディングページ作成、フォーム作成、ソーシャルメディア連携 | Salesforceとの強固な連携、豊富な機能、充実したサポート | 価格が高め、操作が複雑 |
Marketo Engage | リードナーチャリング、メールマーケティング、ランディングページ作成、フォーム作成、イベント管理、ソーシャルメディア連携 | 豊富な機能、高度な分析機能、柔軟なカスタマイズ性 | 価格が高め、操作が複雑 | |
HubSpot | 無料プラン / 有料プランあり 【出典15】 | リードナーチャリング、メールマーケティング、ランディングページ作成、フォーム作成、ブログ作成、SEO対策、ソーシャルメディア連携、CRM、カスタマーサポート | 豊富な機能、使いやすさ、無料プランの充実 | 高度な分析機能は有料、一部機能は日本語非対応 |
差別化要因
- 強力なAIエンジンと大規模データ分析能力
- Buying Stage Model(購買ステージモデル)によるステージ別アプローチ
- Conversational Email などの先進的な自動化ソリューション
- 優れた顧客サポート
過去商談データや外部サイトの匿名データを統合分析し、高精度な購買予測やダークファネル可視化を実現する独自のAI技術 【出典3】
Awareness、Consideration、Decision、Purchase の各段階をスコアリングし、営業・マーケティングそれぞれが担当すべきアカウントを明確化
Generative AI を活用し、見込み顧客からの返信内容に応じた柔軟な対応や、強力なパーソナライズを実現
専任のカスタマーサクセスマネージャーが導入から運用までを包括的にサポート。G2やCapterraのレビューでも評価が高い 【出典9】 【出典11】
7. 価格モデル
6sense は SaaS サブスクリプションモデルを採用しており、Team / Growth / Enterprise のように複数のプランを用意しています 【出典16】。具体的な価格は公開されておらず、組織の規模や必要機能に応じてカスタマイズされます。
8. 将来展望
- AI機能の継続的強化: NLP(自然言語処理)を活用したダークファネル解析や Conversational AI の高度化など、AIをさらに進化させる計画 【出典19】
- 新機能の開発: 顧客のニーズに合わせて新機能を追加し、プラットフォームの価値を高める方針
- グローバル市場の拡大: さまざまな地域の市場特性に合わせたローカライズを進め、世界規模での導入企業拡大を目指す
- データの強化: Slintel の買収によりデータレイヤーを拡充、さらに精度の高いインサイトを提供可能に 【出典20】
- ZoomInfoとの競争激化: Slintel のデータを活用し、ZoomInfo に対抗し得る包括的なデータ・AIプラットフォームを構築する可能性 【出典20】
- クッキー廃止への対応: サードパーティクッキー廃止を見据え、コンテクスチュアルターゲティングやプライバシーサンドボックス等の新技術への対応を推進 【出典20】
9. 6senseの企業文化
6senseは、従業員を「最も重要な資産」と捉え、従業員の成長・発展を重視する企業文化を築いています 【出典21】 【出典22】 【出典23】。
- 成長思考: 学習と成長の機会を積極的に提供
- 責任感: 自身の業務が会社全体へ及ぼす影響を理解し、主体的に行動
- チームワーク: コミュニケーションを重視し、知見や情報を共有して相乗効果を狙う
- 多様性: バックグラウンドの異なる人材が協働し、多面的なアイデアを創出
10. 従業員数
情報源によって若干の差はあるものの、6sense の従業員数はおおむね 約1,100名~1,600名 と報告されています 【出典24】 【出典25】 【出典26】。
11. 総合評価
6senseは、ビッグデータアーキテクチャや多彩なAIモデル、そして “Dark Funnel” や “Conversational Email” といった独自機能により、B2B向けアカウントベースドマーケティングを抜本的にアップグレードする存在となっています。
- 大規模データの統合と予測分析: 過去商談データや外部サイトの匿名データを組み合わせることで、高い精度で購買意向を推定
- 購買ステージモデルによる最適タイミング施策: マーケティングと営業双方が同じデータ基盤・ステージ定義をもとに連携しやすくなる
- Conversational Email の先進性: Generative AI を活用し、見込み顧客とのコミュニケーションを半自動化
ABMのリーダー的存在として、今後もAI技術を進化させながらグローバル展開と新機能開発を推進していく見込みです。サードパーティクッキー廃止や競合他社の台頭といった課題もあるものの、ダークファネルの可視化や高度なオートメーションで差別化する6senseの戦略は、B2Bマーケティングの未来を大きく変える可能性を秘めています。
【参考文献一覧】
- 【出典1】 Fund 6sense stock options - Equitybee, 2024年12月20日アクセス
- 【出典2】 6sense Announces $200 Million Series E Round, Increasing Valuation to $5.2 Billion
- 【出典3】 6sense - The Only ABM Platform Powered by Revenue AI™
- 【出典4】 日本経済新聞 紙面ビューアー - Apps on Google Play
- 【出典5】 6sense CEO Honored by Goldman Sachs | GS Stock News
- 【出典6】 6sense named a Leader in the 2024 Gartner Magic Quadrant™ for ABM
- 【出典7】 6sense Recognized as a Leader in 2023 Gartner Magic Quadrant for Account-Based Marketing Platforms
- 【出典8】 6sense Recognized as a Leader in 2024 Gartner Magic Quadrant™ for Account-Based Marketing Platforms for the Fourth Consecutive Year
- 【出典9】 G2 + 6Sense Integration | Intent-driven ABM - G2 Partner Hub
- 【出典10】 6sense Reviews (2024) | Revenue AI Platform
- 【出典11】 6sense Reviews 2024. Verified Reviews, Pros & Cons - Capterra
- 【出典12】 6sense Pricing, Alternatives & More 2024 | Capterra
- 【出典13】 B2B Marketing Automation Platform | Salesforce US
- 【出典14】 Marketo Engage
- 【出典15】 HubSpot | Software & Tools for your Business - Homepage
- 【出典16】 The Ultimate Guide to 6sense Pricing - Spendflo
- 【出典17】 Marketo Pricing: Understanding the Costs - Spendflo
- 【出典18】 Adobe Marketo Engage Pricing: How Much Does Marketo Cost - Inflection.io
- 【出典19】 6sense Named to the 2024 Forbes Cloud 100 | Business Wire
- 【出典20】 6sense ABX Roadmap – our hot take - B2B Fusion
- 【出典21】 Inward and Upward: 6sense’s Commitment to Employee Growth and Advancement
- 【出典22】 6sense Culture - Comparably
- 【出典23】 6sense - Great Place To Work
- 【出典24】 6Sense Company Profile 2024: Valuation, Funding & Investors | PitchBook
- 【出典25】 6sense: Revenue, Competitors, Alternatives - Growjo
- 【出典26】 6sense | Company Overview & News - Forbes