「営業×AI」最前線:AIエージェントは本当に“営業”を変えるのか?

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AIエージェントが注目される背景

近年、「AIエージェント」という言葉を耳にする機会が増えている。AIエージェントは海外ではデジタルワーカー(Digital Worker)と呼ばれている。営業領域においても、海外スタートアップをはじめとするさまざまな企業が、次々と新しいAIエージェントを生み出し始めている。

営業×AIの領域で今どんなAI活用サービスが登場しているのか、そして、それらの最新動向から見えてくる未来はどのようなものなのか、紹介する。

11xが掲げるオートパイロットの挑戦

シリーズBラウンドで約5,000万ドルを調達している11xは、AIエージェントを「デジタルワーカー」と呼び、SDRとしてのAliceと電話対応特化のMikeを提供している。

シリーズB発表に合わせて公開されたマニフェストで「コーパイロットではなくオートパイロット」を掲げた点が大きな話題を呼んだ。これまで多くのAIツールが人間中心の“コーパイロット型”を想定していたのに対し、11xはあらかじめ詳細なワークフローを定義しておき、顧客の反応や条件に応じて自動でメール送付や電話を行う“完全自動”を指向している。

ただし、導入時には企業の営業プロセスや商習慣に合わせた細かいカスタマイズが必要となるため、ワークフロー設計のハードルが高いという声もある。

WINN.AIによるリアルタイム支援

WINN.AIは、AIエージェントではなく、オンライン商談での“リアルタイムプレイブック”機能を提供する企業だ。

ZoomやGoogle Meetなどを用いたオンライン商談中に、サイドバーにヒアリングすべき項目や説明すべきポイントが自動で表示されるため、聞き漏らしや伝え忘れを大幅に減らせる。

さらに、商談内容は即座にCRMへ反映できるため、営業担当者の事後作業も効率化できる。

Docket AIのAIセールスエンジニア

Docket AIは、AIセールスエンジニアというコンセプトを打ち出している。

海外では、営業を技術面から後方支援するセールスエンジニアが重要なポジションとして認知されており、Docket AIは社内のあらゆるデータソースを参照しながら、営業担当者の技術的な問い合わせに回答を提示するシステムを構築している。

さらに、社内ナレッジだけでなく、製品スペシャリストやPMM、セールスエネーブルメント、セールスエンジニア、トップアカウントの営業担当者などをSME(Subject Matter Expert)として事前に設定し、彼らの回答を優先的に参照できるようになっている点が特徴だ。

Death of a SalesforceとAI時代の構造化

「Death of a Salesforce」という衝撃的なタイトルの記事では、AIがマルチモーダルに非構造データを扱えるようになれば、Salesforceのようなシステムオブレコード自体が不要になるのではないかという見方が示されている。

しかし、実際に営業現場でAIを活用しようとすると、どの情報をどう構造化し、誰が管理し、どのデータソースを優先するかなどのルールを明確に定義しなければならない。AIの能力がどれほど進化しても、こうしたワークフローの設計と運用は不可欠である。

デジタルワーカー導入のハードルと競合激化

AIエージェント(デジタルワーカー)を導入するためには、企業独自の営業プロセスとの適合を図ることが大前提となる。技術面のハードルは徐々に下がりつつある一方、参入企業が増えれば価格競争が激化する可能性が高い。

結果として、AI提供企業は単なるツールの提供にとどまらず、導入支援やコンサルティングといった付加価値を提供しないと差別化が難しい状況になると予想される。

社会全体でみれば、24時間稼働が可能でAIが普及すれば、深刻化する労働力不足の解消につながることが期待される。

AIエージェントは救世主? それとも一時のバズ?

AIエージェントがどれだけ優秀でも、最終的には「ビジネスプロセスをどうデザインするか」が大きな壁になる。

たとえば11xのように“オートパイロット”を掲げても、やみくもに電話やメールを増やしても成果にはつながりにくい。AIの強みを最大限に生かすためには、どの部分を自動化し、どこを人間が担当するのかを明確に決め、運用ルールを整備する必要がある。WINN.AIやDocket AIのように人間をサポートしつつ商談や情報活用の質を高めるアプローチもあれば、11xのようにより高いレベルの自動化を追求する動きもあり、一概にどれが正解とは言いきれない。

しかし、各社の事例からは、AIを活用した営業活動が今後さらに広がっていく可能性がうかがえる。企業が自社の現場に合わせた最適な導入計画を立案・実行できるかどうかが、成果を左右する大きなポイントになるだろう。